前年度は韓国と台湾の分断・分裂体政策及び対外政策を時系列的に比較考察したのに続き、今年度は両国の意識調査データを用いて政策選好を比較考察した。平成22年度内に公表には至ってはいないが、草稿の内容は次の通りである。第1に、韓国の保守と進歩、台湾の右と左、各々の分断・分裂体政策選好(強硬と穏健)を表すデータが比較分析の上で妥当か否かを検討した上で、両国の有権者の主観的理念と分断・分裂体政策選好の「ねじれ」の相関が調査データによってもある程度、裏付けることができた。第2に、韓国の主観的理念は流動的で、かつ政党構造が不安定なため政党支持との相関が不明確であるのに対して、台湾の主観的理念は不明瞭だが政党支持との相関が強いという差異がある。そこで、主観的理念と政党支持の要因を分析したところ、韓国の理念には年齢と教育の要因が大きいのに対して、台湾の政党支持にはエスニック・アイデンティティの要因が大きいことが検出された。第3に、韓国と台湾の理念・政党支持と分断・分裂体政策の相関が、各々の政治的亀裂(韓国の地域主義、台湾のエスニック・アイデンティティ)の疑似相関ではないのかどうかを分析した結果、韓国の分断体政策選好は地域主義に還元することはできないが、台湾の分裂体政策選好はエスニック・アイデンティティの疑似相関であることを否定できないことがわかった。第4に、経済・社会政策選好と分断・分裂体政策選好の諸要因を分析したところ、韓国の主観的理念との相関、及び台湾のエスニック・アイデンティティとの相関が比較的強く表れるのは、経済・社会政策選好よりも対外政策選好及び分断・分裂体政策選好であることが導き出された。第5に、分断・分裂体政策選好の諸要因を分析したところ、韓国の分断体政策選好には他の諸要因を考慮しても主観的理念の影響が最も大きく、台湾の分裂体政策選好には主観的理念よりもアイデンティティと政党支持の影響が大きいことが示された。
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