本年度の研究目的は、第一に、日米繊維交渉における非正式交渉の全容を解明することであった。とりわけ、佐藤総理の密使を務めていた元京都産業大学教授若泉敬と、ニクソン大統領の安全保障担当大統領補佐官ヘンリー・キッシンジャーとの交渉内容を可能な限り明らかにすることであった。第二に、日米繊維交渉における正式交渉の全容を可能な限り明らかにすることであった。日本側は、在米日本大使館の下田大使、牛場大使、吉野公使、米側は、キッシンジャー補佐官、スタンズ商務長官、フラニガン大統領補佐官らが交渉にあたった。第三に、非公式交渉の功罪を明らかにすることであった。 この目的のため、米国立公文書館を訪問し、ニクソン政権のNSC Files Collection、 Henry A. Kissinger Office Files Collectionなどを中心として、日米繊維交渉に関連する米側の公文書の収集に努めた。前述のキッシンジャー、スタンズ、フラニガン、それに、若泉に関連する史料をかなり収集することができ、現在、分析を進めている。とりわけ、これまでまったく世にでることのなかったキッシンジャーと若泉の秘密交渉の状況が浮き彫りにされつつあることは、大きな成果であると言ってよい。 また、わが国の史料に関しては、これまで、外務省への行政文書開示請求を行ってきたところである。日米繊維交渉に関連して、すでに、約5000頁に上る文書が開示されており、そのほとんどがこれまでまったく知られていなかった第一級の史料であり、そうした史料の発掘も成果として挙げられる。現在、適宜、収集した史料の分析作業を進めており、重要は外交文書の発見もいくつか見られた。 さらに、若泉敬の事跡を辿るために、勤務先であった京都産業大学を訪ね、史料収集ならびに若泉所縁の人々への聞き取りを行なうことができたことも成果に数えられよう。
|