20年度の研究調査の主眼であるジュネーヴ赤十字国際委員会のアーカイヴ調査で、北朝鮮帰還事業に関する資料の総量(約4万5千頁)を確認し、このうち1953年〜60年のもの約6千頁を入手した。外務省に対する開示請求では1万2千頁の文書の解除を受けたが、その多くが機密指定解除文書である。これらの資料から帰還事業の前史について以下のことが判明した。 (1)当初、想定していたよりも古く朝鮮戦争停戦後に遡り、(2)その帰還交渉は、ソ連抑留・中国残留邦人の帰還交渉における左派による外交攻勢の一環にあること、(3)韓国・北朝鮮間の捕虜交換・領海・領土をめぐる対立が日朝間の交渉に重大な影響を与えていたこと、(4)日韓間での抑留者交換問題(日本に不法入国し逮捕・拘留された韓国人と、韓国によりその殆どは不当に拿捕・拘留された日本人漁師)、これらの4点が複雑に絡んだ交渉過程であることが判明した。また、これら帰還交渉は事実上、「人質」外交の性格を有し、その他方、公の声明は「人道」・「戦犯」・「不法入国」として表明されるため、諸事実に対する的確な解釈が重要である。 研究会の組織化については脱北帰国者・拉致被害家族・関連団体とのヒアリング・研究会の結果、脱北ルート・拉致被害が東アジア・東南アジアに拡大していることから、アジア人権人道学会として北朝鮮問題を中心に主題をより拡大した組織を結成することとなった(2009年5月9日結成)。 資料の性格・分量から20年度は成果公表を見合わせる必要があった。
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