本研究は、文化経済学、特に、美術品市場における売り手と買い手の経済行動および美術品の価格形成の研究を行った。本研究では以下の点を明らかにした。 (1)美術品市場の市場価格に関するいくつかの実証研究によれば、画家の死後、彼の芸術作品の市場価格が上方にジャンプする傾向があることが確認されている。本研究では、動学的一般均衡モデルを用いて、これらの実証結果が示唆するような美術品の価格の動きを理論的に説明することに成功した。 (2)本研究では、供給者(画家)の作品の生産性および時間選好率の低下、需要者(美術品の購入者)の所得の増加や彼の作品への選好シフトが起きると、長期的に彼の作品の価格が上昇するだけでなく、予想されないこのような変化が、画家の作品の市場価格が上方ジャンプを引き起こすことを明らかにした。 (3)画家の突然死のニュースと画家の余命に関するニュースでは、彼の作品の市場価格に与える影響が異なることがわかった。後者の価格ジャンプは前者よりも小さいが、画家が死亡する時点まで価格は緩やかに上昇していき、死亡時点では両者の価格が一致することがわかった。 (4)この論文で得られたいくつかの理論的研究の仮説に対して、共同研究者であるコンスタンツ大学のウルシュプルング教授が実証研究を進めており、いくつかの理論的結果(すべてではないが)が実証研究において確認されている。 (5)現在まで得られた理論的研究結果はドイツのミュンヘン大学Ifo経済研究所ディスカッションペーパ(CESifo Working Paper Series 2213)という形でまとめられ、日本経済学会や国際公共経済学会に発表してきた。さらに、文化経済学の分野では最も権威のある査読付きの国際雑誌であるJournal of Cultural Econolnicsに投稿中である。
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