研究概要 |
当該年度は、貨幣的均衡に関し以下の研究を行った。まず、ランダム・マッチングモデルの一般的性質を分析し貨幣的均衡解の大域的性質を明らかにした。具体的には、これまでのlabor search, money searchなどのすべてのサーチモデルを包含するモデルを提示し、その均衡解を非線形停留点問題の解として分析した。その結果、非常に弱い条件の下で均衡解が存在することが証明された。また、貨幣的取引に着目するとある種の恒等式(ある種の保存則)が均衡条件の中に隠されていることを発見した。これを使うと、均衡解の集合は正則性を満す限りにおいて一次元多様体になることを示した。また、正則性が一部で満たされなければ代数多様体の構造を持つことを例示した。また、この多様体の端点は非常に特殊な構造を持っており、貨幣的均衡の性質を議論する際に有用であることを示した。(例えば、price dispersionの存在証明に使えると思われる。)次に、貨幣サーチモデルにおいて、value functionが貨幣量について狭義単調増加で貨幣保有分布のサポートが連続体である場合には定常均衡は有限個である、という予想(Wallace予想と呼ばれる)について研究した。その結果、この予想は否定的に解決されることが分かった。つまり、value functionが貨幣量について狭義単調増加かつ貨幣保有分布のサポートが連続体であるにもかかわらず、定常均衡集合が連続体であるケースを発見した。また、これらの均衡はいわゆるcommodity money refinementを行っても生き残ることを示した。すなわち、貨幣そのものが効用を持つケースでの均衡を考え、効用をゼロに収束させたときの極限にこれらの均衡はなっていることを示した。この結果は、貨幣経済の本質を明らかにしたものであり、この分野での重要な貢献と考えている。
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