本研究申請前の研究の成果が結実したものではあるが、本研究を遂行する上で基礎となる二つの研究論文が2009年6月発行のPublic Choice 139号と2010年3月発行の新潟大学経済論集88号に掲載された。share functionと呼ばれる関数の性質を調べることにより、Public Choiceの論文ではレント・シーキング・ゲームに危険回避的なプレイヤーが存在する一般的なモデルにおけるナッシュ均衡の存在と一意性を証明した。同じ結論はcumulative best reply functionと呼ばれる関数の性質を調べることによっても証明でき、その証明が新潟大学経済論集88号掲載論文で与えられている。レント・シーキング・ゲームを包含する、より一般的なaggregative gameのNash均衡の安定性に関する論文を9月のEARIE学会で報告した。本研究課題が準拠する最も基本的なモデルでは高関税(関税導入、あるいは禁輸)を支持するグループと低関税(関税導入反対、あるいは貿易自由化)を支持するグループの二つのグループが存在する。基本的なモデルで各グループのメンバーが増えたときに関税率が高くなる確率がどのように変化するか分析している。先行研究ではメンバー数増加はそのグループに不利になることが示されているが、外国企業と自国企業の異質性を導入することにより、メンバー数増加はそのグループに有利となる可能性もあることを示せた。2010年度は新たに、農産物輸入化と小売店の関係などを上手く記述する、川上、川下モデルにおけるレント・シーキングと関税率の問題を分析した。基本モデルでは外国企業と消費者グループが反高関税グループであったが、新しいモデルでは川上と川下の政治的対立を分析できるようになった。新しいモデルでも各グループのメンバーが増えたときの効果は単調であるとは限らないことを示すことができた。
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