2010年度は主として二つのテーマについて詳細に研究し、幾つかの成果を得ることができた。パテント・レース・ゲーム及びR&Dゲームは戦略的に同値である一般的なレント・シーキング・ゲームを考察し、そのゲームに参加するプレイヤーの異質性と数の増加が均衡に与える影響を分析した。強力なプレイヤーと小さいプレイヤーがいるゲームを考え、小さいプレイヤーの数が増えたときにどのような影響があるか考察してみた。本研究では関税率決定の基礎的モデルはレント・シーキング・ゲームのモデルであり、高関税(関税導入、あるいは禁輸)を支持するグループと低関税(関税導入反対、あるいは貿易自由化)を支持するグループの二つのグループが存在し政治的に対立している。上述した一般的なレント・シーキング・ゲームでの結果を応用して、基本的なモデルで各グループの小さいプレイヤーの数が増えたときに関税率が高くなる確率がどのように変化するか分析できた。先行研究ではメンバー数の増加はそのグループに不利になることが示されているが、各政治グループのメンバーに異質性を導入することにより、メンバーの数の増加はそのグループに有利となる可能性もあることを示せた。その成果は2010年6月に開催されたAPET(Association for Public Economic Theory)の第11回年次会合、PET10、で報告することができた。2010年度は別のテーマについても研究した。農産物の輸入と小売店の関係などを上手く記述する、川上、川下モデルにおけるレント・シーキングと関税率の問題も分析した。基本モデルでは外国企業と消費者グループが反高関税グループであったが、新しいモデルでは川上と川下の政治的対立を分析できるようになった。新しいモデルでも各グループのメンバーが増えたときの効果は単調であるとは限らないことを示すことができた。
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