企業内の教育・訓練は学校教育とある程度代替的であると考えられる。そこで、昨年度、企業の教育投資を考慮したマクロ動学モデルを構築したが、本年度はそれをさらに精緻化して所得格差の分析を行った。 具体的には、熟練労働者と未熟練労働者の間の代替・補完の関係が結論にどの程度影響を与えるかを検討するために、コブーダグラス型生産関数に代えてCES型生産関数を組み込んだモデルを分析した。その結果、学校教育水準の低下が企業の人的資本投資の費用の増加をもたらし、そのことが非正規雇用者数を増加させ、非正規雇用者と正規雇用者の間の所得格差をより一層拡大させる可能性があるという結論が、かなりの頑健性を持つことが明らかになった。 所得格差に関する研究の中で最近その重要性を増しているものに、同程度の教育を受けたグループ内での所得格差と、教育水準の異なるグループ間での所得格差の問題がある。技術革新が発生した場合、各個人による教育水準の選択を通してグループ間の格差が拡大しうることは、Caselli(1999)の先駆的な研究においてすでに示されているが、グループ内での所得格差についてはこれまで必ずしも十分な分析がなされてこなかった。Katz and Autor(2000)が指摘しているように、アメリカでは、最初に熟練労働者のグループ内での所得格差が拡大し、その後にグループ間での格差が拡大している。Caselli(1999)のモデルにMeckl and Zink(2004)の教育水準の選択に関するアイデアを導入したモデルを用いて、技術革新とグループ内及びグループ間での所得格差の分析を行った。その結果、技術革新によって熟練労働者のグループ内での所得格差は拡大するが、未熟練労働者内の所得格差は縮小することを示した。
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