低所得者の所得水準が上昇しない原因の一つとして、その労働供給曲線の特殊性が挙げられている。つまり、賃金が非常に低い時にさらに賃金が低下すると、それまでの所得水準を維持しようとしてむしろ労働供給を増やしてしまい、それが全体として賃金を引き下げ、個人の所得水準をかえって減少させるというものである。従来の研究ではこのような労働供給行動をうまく説明できなかったのに対して、かなり妥当な仮定の下で、高賃金率の下でのみならず低賃金率の下でも右下がりになる労働供給曲線を導出した。 Maoz&Moav(1999)の代表的な研究をはじめとして、経済成長と所得格差を分析した多くの研究では、所得水準が増えるとともに、所得に占める教育費のシェアが減少する、あるいは一定である、と仮定されている。しかし、これは実証研究の結果とは必ずしも整合的でない。そこで、Maoz&Moavのモデルを再度詳細に分析した結果、所得に占める教育費のシェアが所得の増加にともなって上昇する場合、所得格差と所得水準が定常均衡へ向かって単調に収束していくという彼らの結論は成り立たず、それらが循環的に変動することが分かった。 人的資本の特徴として、物的資本に比べてそれがより大きな外部効果を持つ点が指摘されてきた。外部性が存在する場合、競争均衡は一般にパレート最適にならないので、政府が介入して効率性を改善する可能性が生じる。そのための政策手段として学習や教育への補助金が考えられている。従来の研究では、モデルごとにその動学的体系を詳細に調べて最適な補助金を見つけるという方法がとられているのに対して、最適な補助金を見つけるための簡単で有用なルールを人的資本蓄積モデルを用いて示した。
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