今年度の研究成果は、効用関数にstatus-seekingという新しい要素を加味した分析を行った結果、共有資源の利用率が従来より低下することを証明できたことである 消費活動による効用が個人の消費の絶対水準だけではなく、他人の消費量に対する相対水準にも依存する状況を考え、後者の相対水準をコミュニティー構成員全員の消費量の平均値で測るものとすると、自己の消費の絶対水準が高くなっても、他の人々のそれも概して高く、自分の消費量が平均以下であれば、効用水準は一向に高まらないと考えられる。そのような場合、共有資源の利用については、他人がより多く資源を使うなら、自分も負けじとさらに多くの資源を消費しようとするはずであるが、われわれの研究では、生産要素として、当該資源の他に、例えば蓄積可能な物的資本のような、もう一つ別の共有資産があり、かつ当該資源の採掘には労働の投入のように何がしかのコストがかかる場合には、当該共有資源の採掘率は、人々がstatus-seekerでないとき、すなわち従来の効用関数の下でのそれより低くなることがわかった。その理由は、物的資本が共有で、その蓄積のために各人が投資をしなければならない限り、資源採掘率を下げてコストを抑える代わりに、資本蓄積過程でのfree ridingを決め込むような行動を採るからと考えられる。 この結果は、天然資源以外に蓄積可能資産がある限り、たとえ人々が他人の消費量を気にするとしても、「共有地の悲劇」から逃れられる可能性があることを示唆しているという意味で大きな意義がある。
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