研究概要 |
ひとつの財について複数の主体が使用の権利を有するとき,それらの権利が各主体の十分な使用を妨げ,使用・消費水準は過小になりがちである。これは「アンチコモンズの悲劇」という。例えばひとつの製品に多くの特許がかけられ,それらの特許を有する主体が異なるときには,主体問の調整が十分に働かず,高価格・過小生産の事態を招くことになる。本研究ではこのアンチコモンズの問題を理論的に検討する。 本年度は先行論文をみつつ,小さな理論モデルを構築した。それがいくつかの学会で報告した論文(A Bargainingmodel of the Anticommolls)である。 そこでは,アンチコモンズは主体問の調整がうまく働かないことが要因であると考え,代替的に,そこに政府の規制を考える。ただ,単に規制をかけるというのではなく,政府と各主体との交渉を考える。これにより,(i)主体同士の調整のコストと(ii)各主体と政府との問の調整のコストとを比較し,政府の介入にあるアンチコモンズ状態にある財の十分な活用が可能かを考察しようとした。 帰結としては,主体数が少数のときには主体同士の交渉にまかせるほうが,政府が介入するよりも好ましいし,主体数が大きくなると逆になるというものになり,自然な帰結が得られたと感じている。 以上の論文はRichard Cornes教授との共同論文となっている。2007年度いくつかの学会・セミナーで報告を行ったが,研究の成果が結実して得られるというよりは,多くの研究者との議論を経て,さまざまな問題があらわになったと感じている。たとえば,アンチコモンズ自体の問題をどうとらえるのかについても再考察が必要と思われたし,政府と各主体との間の交渉の形態や調整の費用の扱いについてもより説得的なモデルビルディングが必要であると痛感させられた。 幸いにもまだ初年度の研究ということで,これからじっくりと,しかし精力的に取り組んでいきたいと考えている。
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