ひとつの財について複数の主体が使用の権利を有するとき、それらの権利が各主体の十分な使用を妨げ、使用・消費水準は過小になりがちである。これは「アンチコモンズの悲劇」という。例えばひとつの製品に多くの特許がかけられ、それらの特許を有する主体が異なるときには、主体間の調整が十分に働かず、高価格・過小生産の事態を招くことになる。本研究ではこのアンチコモンズの問題を理論的に検討する。本年度、研究二年目を迎えた。一年目に先行論文をみつつ、小さな理論モデルを構築した。そこではアンチコモンズは主体間の調整がうまく働かないことが要因であると考え、代替的に、そこに政府の規制をかけアンチコモンズ状態にある財の十分な活用が可能かを考察しようとした。そして、主体数が少数のときは主体同士の交渉にませるほうが、政府が介入するよりも好ましいし、主体数が大きくなると逆になるという帰結を得ていた。ただ、多くの研究者との議論を経て、アンチコモンズ自体の問題をどうとらえるのか、政府と各主体との間の交渉の形態や調整の費用の扱いについて、より説得的なモデルビルディングの必要性が課題として浮き彫りになってきた。二年目に当たる平成20年度では、様々な文献の掘り起こしや問題の所在を考える作業に終始し、研究が具体的な形に帰結するところまでは至らなかった。また、この間、特許や財産権等の論文に目を奪われてしまったというのも理由のひとつである。これらはアンチコモンズに関する問題とはいえ、わたしの焦点が若干散逸してしまったことを反省している。そこで手を広げすぎてしまった研究体制の見直しを痛感した次第である。本課題の計画年度の半ばにさしかかり、これから、小さな帰結からも積み上げつつ、本質的な問題にいたることができればと考えている。
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