複数の主体が共有地(もしくは財)を自由に使用することが許されているとき、それぞれの使用主体がその土地の最適な使用水準よりも過剰な消費を行なうことは「共有地(コモンズ)の悲劇」として知られている。これは、共有地がどの主体にとってもアクセス可能であることから生ずる現象である。共有地の悲劇の問題は、ゲーム理論において「囚人のディレンマ」の問題としてとらえられ、多くの研究がなされている。 それに対し、ひとつの財について複数の主体が使用の制限の権利を有するとき、それらの権利が互いの主体の十分な使用を妨げ、使用・消費水準が過小になることがある。これを「アンチコモンズの悲劇」という。例えば、ひとつの製品に多くの特許がかけられ、それらの特許を有する主体が異なるときには、主体間の調整が十分に働かず、高価格・過小生産の事態を招く。本研究では、このアンチコモンズの問題を理論的に検討するものである。 アンチコモンズの問題のポイントは、複数の主体が「補完的な財(例えば特許の例では、複数の特許がお互いにセットになってはじめて製品にむすびつくと想定)」を「各主体が独占的に」供給するために、調整がうまくなされたならば各主体が得られたであろう利益が減少するということにある。ここから、調整または交渉の可能性をさぐることが問題のポイントになってくる。これを中心としつつ、余剰分析、調整費用の問題、長期的な効果の分析、コモンズの問題との比較、意思決定の問題等に取り組むものとする。
|