研究概要 |
「社会保障改革-高齢者は年金制度の縮小に反対するか-」を同志社大学紀要に公刊した.論文は年金改革を政治経済学の視点から議論したものである.貢献の1つは,報酬比例部分のある年金制度のもとでは,低所得の高齢者が年金制度の縮小あるいは廃止に同意する可能性があることを理論的に示した点である.海外の専門誌に投稿すべく準備を進めている. "Old age sUpport in kind"をJournal of Pension Economics and Financeに投稿した.論文では特に高齢者向けの社会保障に焦点を当て,現金給付としての年金と現物給付としての公的介護の政策効果を比較している.分析の特徴は,壮年期の時間配分について,労働,子どもへの教育に加え,親への家族介護を考慮している点である.年金給付が増えると所得効果により家族介護に対する需要が増える.そのため壮年期の子どもへの教育が低下し,経済成長率が低下する.他方,公的介護が増えると教育が促され成長率が上昇する.その理由は,公的介護はその代替物である家族介護の価格,すなわち子どもの賃金率で評価されるため,教育誘因効果を持つためである.本稿の結果は,介護に関わる家族内の戦略的行動がある場合,現物給付が現金給付よりも優れていることを示唆している.論文は査読を終え,掲載を受理されている. "Progressive taxation,income convergence and economic growth"を国際財政学会において報告した.論文は累進税制の所得格差是正効果を動学的に分析している.特に,移行経路における所得格差と経済成長の関係に焦点をあてている.本稿の分析によると,能力および資産の両面で初期の格差が大きいとき,格差縮小経路において当初成長率は上昇し,その後低下することが理論的に示される.論文は現在海外の専門誌に投稿中である.
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