研究概要 |
公共財の効率的供給を達成する上でのNash遂行メカニズムの機能を保証するNash均衡戦略学習プロセスの探求を本年度の研究目的とし,Nash遂行メカニズムの代表的なメカニズムであるGroves-Ledyardメカニズム(GLメカニズム)のもとで,Nash均衡へのメッセージの収束状況と罰則パラメータの値との関連性を調べるため実験を行い,次のことを明らかにした。 2次の公共財評価関数を組み込んだ準線形の効用関数をもつ個人が,Nash行動(Cournot-Nash最良反応動学)に従ってメッセージの選択を行う場合,メッセージがNash均衡に収束し,Pareto効率的配分が達成されるための条件を罰則パラメータγの範囲として導出し,γの下限γcはGLメカニズムがsupermoduralityを満たすための条件としてY.Chenが示したγの閾値γsを下回ることを明らかにし,その上で,罰則パラメータγを3つのケース(0<γ<γc,γc<γ<γs,γs<γ)に設定した実験を行った。実験の結果,どの設定においても,意思決定ラウンドの後半にはNash行動が一般的となることを確認し,0<γ<γcと設定した場合にはNash均衡へのメッセージの収束は期待できないが,γs<γと設定した場合のみならず,γc<γ<γsと設定した場合においても,大部分の実験セッションでNash均衡へのメッセージの収束が観察されるという実験結果を得た。このような結果は,罰則パラメータγの設定に関して,Chenの示した閾値γsよりも下恨γcの方がより重要な意味を持つことを示唆している。また,個人の数(経済規模)が大きくなる場合や個人合理性の充足や応益性の観点からみた公平性の確保の問題を考慮した場合,γを高く設定することが,GLメカニズムの性能を低下させる可能性があると言える。
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