2007年度は、そのほとんどを、ジル・ドスタレール『ケインズの闘い』藤原書店、近刊、の翻訳作業に費やした。日本語版で700ページを超える大部な著作であるため、8名の訳者によって翻訳作業が進められ、私が監訳者の一人として作業を統括した。2008年夏に刊行の予定である。哲学・政治・経済学・芸術という四つの軸に沿って、ケインズの生涯と活動について包括的に論じている。さらに本書の特色は、これらの幾つかの領域におけるケインズの活動をたがいに密接に結びついたものとして描いているところにある。経済学者ケインズの理論は、彼の政治的ビジョンや哲学上の見解と深く関連しているのであって、これらを切り離して考察することはできないというのが、本書の主張である。 ケインズによって一度は葬り去られたはずの自由放任資本主義が息を吹き返したかに見える今日、新自由主義政策に取って代わる代替的な経済政策の方向を探るうえで、資本主義経済が本来的にはらんでいる不安定性を直視したケインズの理論と思想に立ち返ることの意義はますます大きくなっている。そのなかにあって、これまでに類書のない本書は、今後、ケインズ研究における基本書の一つとして、各国の経済学史研究者によって長きにわたって参照されていくものと思われ、その日本語版を出版することの意義は大きい。
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