2008年度は、監訳者の一人としてジル・ドスタレール著『ケインズの闘い--哲学・政治・経済学・芸術』藤原書店、を公刊した。700ページを超える大部な著作であるため、8名の訳者によって翻訳が進められ、ほぼ2年に及ぶ作業を経て公刊にこぎつけた。哲学・政治・経済学・芸術という四つの軸に沿って、ケインズの思考と活動について包括的に論じた著作である。これまでに類書のない本書は、今後、ケインズ研究における基本書の一つとして長く読み継がれていくことになるであろう。刊行後は、全国紙3紙、週刊経済誌2誌の書評で取り上げられたことにも見られるように、学界にとどまらず広く社会において反響を呼び、「日本語で読めるケインズ評伝の決定版」(『週刊東洋経済』2008年11月15日号)などと、好意的な評価を受けている。 さらに同年度は、「カレツキの経済政策論」および「ケインズ主義の可能性と限界」と題する2編の論文を執筆した。いずれも2009年度前半に刊行の予定である。前者は、カレツキが資本主義経済の矛盾と限界をどう捉えていたのかに注目しながら、彼の経済政策論の今日的な意義と可能性を明らかにしようとする。後者は、カレツキ経済学の視点から、ケインズ主義の歴史的限界について論じている。資本主義市場経済が本来的にはらんでいる不安定性を直視したケインズとカレツキの理論と思想について考察することは、新自由主義政策の限界が問われる今、経済政策の新しい方向を探っていくうえで大きな意義をもつものと思われる。
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