2009年度は、ケインズとカレツキの経済学に関する3編の論文を発表した。「ケインズ主義の可能性と限界--カレツキ経済学の視点から」(『現代思想』第37巻第6号)では、カレツキ経済学の視点によりつつ、戦後資本主義におけるケインズ主義の興隆とその危機について考察するとともに、新自由主義政策に代わる経済政策の方向について検討を試みている。「カレツキの経済政策論--完全雇用の政治経済学」(『経済科学』第57巻第1号)は、カレツキが資本主義経済の矛盾と限界をどう捉えていたのかに注目しながら、彼の経済政策論の今日的な意義と可能性について考察する。とくに、政策形成に対する様々な政治的・社会的障害をカレツキがとう捉えていたのかを明らかにしようとする。 これら2編の論文がカレツキとケインズの経済学それ自体を考察の対象とするのに対して、「ポスト・ケインズ派貨幣経済論の回顧と展望」(『季刊経済理論』第46巻第4号)は、ポスト・ケインズ派経済学の最近の動向を概観することを通して、ケインズの洞察の今日的意義がどこにあるのかを探り当てようとするものである。この論文では、おもに内生的貨幣供給理論の展開に焦点を合わせてポスト・ケインズ派貨幣理論の基本的性格を明らかにしたのちに、代替的な経済理論と政策の方向について検討を行なっている。 新自由主義政策への疑念と反省が大きな広がりを見せている今、資本主義経済の本来的な不安定性に着目していたケインズとカレツキの洞察に立ち返りつつ、経済理論と経済政策の新しい方向を探ろうとする研究の意義はますます増大している。
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