2010年度は、ケインズとカレツキの経済学に立ち返りつつ、ポスト・ケインズ派の金融理論と金融政策について研究を進めた。とくに今日の主流派マクロ経済学の枠組みとの異同を探ることによって、ポスト・ケインズ派経済学の意義と可能性を明らかにしようと努めた。 今日の主流派マクロ経済学は、新しい古典派およびニュー・ケインジアンの双方の貢献を統合することによって「ニュー・コンセンサス・マクロ経済学」という新たな枠組みへと変貌を遂げた。ニュー・コンセンサスは、近年における中央銀行業務の革新に焦点を合わせて、短期金利が外生的である一方で、貨幣供給は内生的であるという見解を示している。しかしながらニュー・コンセンサスは、マクロ経済の長期均衡がもっぱら供給側の要因によって決定されると考えているなど、その枠組みはきわめて古典派的な色彩の強いものである。さらにニュー・コンセンサスは、ヴィクセル的な自然利子率の概念を受け容れるとともに、自然利子率が重力作用の中心として作用すると見ている。 これとは対照的にポスト・ケインズ派は、総需要が短期の産出量を決定するだけでなく、長期の成長経路を方向づけるうえでも重要な役割を演じると考える。さらにポスト・ケインズ派は、一義的な自然利子率の存在を否定するとともに、貨幣的要因によって決定される利子率が重力作用の中心をなすと主張する。 資本主義経済のもとでの生産や雇用の決定においては貨幣的な要因が支配的な力を示すというケインズの洞察の重要性について、現代経済学の知見を踏まえて考察を加えた点にこの研究の意義がある。研究の成果は、論文にまとめて2011年度中に発表する予定である。
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