研究概要 |
本研究の目的は,レオン・ワルラスの経済学の形成過程を,フランス経済学史,思想史の中で絞殺することにより,一般均衡理論の思想的起源を明らかにすることである。今年度は,A.N.イスナールの主著『富論(Traite des richesses)』(1781)とワルラスとの関係に特に着目した。この著書は、同時代人からはほとんど評価をうけなかったが,商品の交換価値を方程式によって数学的に表現した部分が,刊行後ほぼ100年たってから,ワルラスやジェヴォンズの注意をひきつけた。そのことがきっかけになって,20世紀の研究者たちは,イスナールを数理経済学者の先駆者として位置づけるようになった。さらにジャッフェが,ワルラスの一般均衡理論へのイスナールの影響を主張するようになり,イスナールは一般均衡理論の先駆者としても,評価を受けるようになった。本研究は,このような解釈とは少し違った方向で,イスナールとワルラスとの関係を検討し,イスナールの経済思想の意義と,ワルラスの一般均衡理論の思想的起源に新しい光を投げかけることを目的としている。かってシュンペーターは,一般均衡モデルの理論的形成史としての「フランスの伝統」を語ったが,それ。とは違った「伝統」をこの二人の関係に見出すのがねらいだからである。そのため,ローザンヌ大学ワルラス文庫での調査,リヨン第2大学における資料収集や,イスナールの専門家Klotz教授との議論を重ねた。今年度の成果は,来年度の学会発表につなぐ予定である。
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