1.日本18世紀学会第32回全国大会共通論題「趣=味」において「イタリアにおける趣味論の系譜」の発表をおこなった。ここでは奢侈論の射程が、美的・道徳的判断としての趣味判断にまで達することを、イタリアの事例をもって明らかとした。すなわち奢侈に関する判断基準としての趣味について、ムラトーリは『完全なイタリア詩』(1706)において、その適用範囲を言語(文学)にから人間知性全体にかかわる実践的判断力にまでひろげようとし、その試みを継承して、ベッカリーアは『文体論』(1770)であつかう美学を、刑罰論や経済学をふくむ諸学問の基礎的原理とし、趣味論を人間学の基礎と位置づけた。しかしその後、趣味概念の性格や対象領域は狭まる傾向をみせ、ミリーツィアにおいては、哲学的理念、カニャッツィでは、有力者の奢侈における芸術(belle arti)に限定されてくる。 2.前年度の国際研究集会での発表を簡略化した日本語での報告を「奢侈と文明-18世紀イタリアの視角から」と題して、経済学史学会西南部会第109回例会においておこなった。この報告では、第1に、奢侈を社会的剰余ととらえることで、奢侈と文明という問題設定のなかで、剰余の社会的分配にかんする議論が可能となったこと、社会的剰余の分配という観点がミリーツィアにおける、建築と経済学の出会いの場を設定するものであったことを立証している。 3.2009年度(平成21年度)の公表した論文「『百科全書』リヴォルノ版について-オーベールの手紙から-」は、18世紀科研究会編『啓蒙と東アジアThe Enlightenment and East Asia』、2010年12月に再録された。 4.上記2.に言及した報告に改訂をくわえて、論文「F.ミリーツィアにおける奢侈・建築・経済学」を、『都市をデザインする福山市立大学開学記念論集』、児島書店、2011年3月において公表した。
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