研究概要 |
1.ロシア革命に関わる社会主義思想のうち,革命の初期(とりわけ二月革命から十月革命直後の時期)にマルクス主義的社会主義以上に大きな影響力をもったナロードニキ的社会主義について研究し,同時代の経済学者ポリス・ブルツクスによるその包括的な批判の紹介と検討を論文「二月革命期におけるブルツクスの土地改革論」にまとめた.ナロードニキ的社会主義の唱える「土地不足」論とそれに基づく無償での土地均分論の根本的な問題点は,非市場的・自給的な農民経営を理想視するために,国民経済発展(およびこの過程における工業都市への人口移動を伴う職業分化)の観点を欠いているという点にある.ブルツクスはこの点を的確に指摘しながら,小農民経営の発展を国民経済全体の資本主義的工業化過程の有機的一環と位置づける独自の土地改革構想を提示している.非市場的・自給的な生産を理想視する思潮は今日の社会運動の中にもなお根強く存在することからみても,ブルツクスによるナロードニキ的社会主義の批判は大きな意義を有している. 2.ソヴェト体制と社会主義思想の関係について検討し,ボリス・ブルツクスがこの主題について行った晩年の考察の紹介と検討を論文「社会主義とソヴェト経済」にまとめた.この論文では,ブルツクスの見解をたどりながら,ソヴェト体制が社会主義に託されていた理想からかけ離れたその非効率性や非人間性にもかかわらず,生産手段の社会化と計画経済(市場ではなく指令が調整において支配的となる経済)の確立というマルクス主義が掲げた2つの大きな変革を実現した点において,マルクス主義的社会主義の実現形態とみなしうるものであることを明らかにした. 3.これらの研究と平行して,経済計算論争以前の時期の社会主義思想と社会主義批判の諸潮流に関する文献研究を進めた.その成果については次年度以降に公表の予定である.
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