研究概要 |
本年度は,経済計算論争以前の時期における社会主義批判の諸潮流に関する研究,具体的にはロシア革命に先立って『資本論』第1巻の刊行直後の1874年にA.シェフレとP.ルロワ-ボーリューによる社会主義批判の検討に取り組み,以下の点を明らかにした。 1. シェフレが1874年に刊行した『社会主義の真髄』は,社会主義経済の概要をはじめて具体的に示した著作であり,彼が描いた社会主義像は,ロシア革命までの40年にわたり社会主義をめぐる議論の共通の前提をなした。また,彼は自らが理念化した社会主義経済について綿密な批判的検討を行い,労働価値を評価・計算単位とする経済管理について,需要変化への対応や人々の経済的動機という点から,重大な疑問を提起した。2. ルロワ-ボーリューの『集産主義』は,シェフレを出発点としつつ,(a)価格と利潤という導き手を欠くため,国家による生産管理は需要から乖離した不効率なものになる,(b)国家による生産管理に伴う巨大で複雑な官僚機構は,改善と革新への動機を弱め,その機会を極度に制限する.(c)生産決定の権限が国家に集中することにより,需要の国家への全面的従属が生じる,との主張を展開した。両者はミーゼスに先んじて,一体として,資本主義体制との比較における社会主義体制の批判的検討という問題領域を切り開き,これを一挙に高い到達点にまで導いた。これまでほとんど忘却されてきた両者の研究を発掘し,それらが以上のような重要な内容をもつことを明らかにしたことは,本研究による大きな成果の一つである。 なお,この研究と平行して,ソヴェト体制の形成・確立過程での政策選択と社会主義思想の関係についての歴史的-理論的考察を継続中であり,次年度に論文にまとめることとしたい。
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