1) アダム・スミスの経済社会思想体系の形成史的特長を、その方法論にさかのぼって探り、「本能」概念に注目し、初期論文から『道徳感情の理論』及び『諸国民の富』にいたる概念内容を再検討した。結果的に、彼の「本能」概念がとくに生物学的な内容であること、さらに、『諸国民の富』執筆時にはまだ「交換性向」が本能の産物なのか、理性や言語の産物なのかを明確につかんでいなかった(迷いがあった)のに対して、1790年の『道徳感情の理論』第6版への追加の中で、明確に、「人間の言語は本能を基礎として成り立つ」と認識することになった。その意味で、スミスの「人間性」把握は、生物学的な意味での「本能」概念に基づき、人間を「利己心と互恵的利他心の統一であり、不可分のもの」と捉えていたことを、厳密な文献考証に基づいて論証できた。グラスゴー大学で開催されたSmith in Glasgow'09(2009年3月31日〜4月2日)で発表した論文で、以上の点を明らかにした。
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