研究概要 |
モヴシュクの研究では、ライフサイクル仮説に基づく貯蓄行動分析に関し、貯蓄率の変化に与える要因を年齢効果、コーホート効果、および年効果の三つの効果に分解する新手法を考案した。そして6カ国(日本、米国、英国、イタリア、台湾、タイ)の家計調査ミクロデータを用いて貯蓄率を推計し比較分析を行った。ノンパラメトリック分析を利用したこの研究では、年齢効果に関して老年期の貯蓄率が大きく減少しており、伝統的な先行研究結果と比較してこの新手法がより適合していると判明した。特に、日本で急速に進行している高齢化を鑑みると、先行研究の場合に比較して、将来の貯蓄率減少が顕著となると予測される。これらの推計結果はモヴシュク(2008)に掲載された後、さらに改定して2009年度日本経済学会秋季大会報告申請のために提出した。 澤田の研究では、日本で発生した金融危機が生み出した、世帯厚生水準の低下を数量的に把握する手法をさらに改善し、日本のパネルデータを用いた再推計を行った。具体的には、分析の枠組みとして、消費オイラー方程式の推計から流動性制約に関するラグランジュ乗数の大きさを推計し、金融危機がもたらした限界効用のコストを推計する手法である。推計結果によると、所得の最下層25%と最上層25%それぞれのグループでの厚生コストは、10.27%、2.44%である。これらの推計結果は、Yasuyuki Sawada, Kazumitsu Nawata, Masako Ii, and Jeong-Jong Lee, "Did the Financial Crisis in Japan Affect Household Welfare Seriously?"としてまとめられ、Journal of Money, Credit and Bankingに投稿後、改訂要求が得られている。
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