多変量実験データの間の従属関係の分析に用いられるグラフィカルモデルの考え方と、それとは独立に時系列解析において予測理論との関連で発展してきた因果性概念とを融合して応用性の高い経済経験分析の接近法を構築することが本研究の目的である。平成19年度の研究より継続して、グラフィカルモデル分野のこれまでの研究著書、研究論文を渉猟・比較研究をおこなっている。とくにLauritzen“Graphical Models"(1996)、Cox-Wermuth“Multivariate Dependencies"など自然科学の研究で展開されている方法論を計量経済分析に適した修正を考察した。本研究者は二系列の多変量時系列データ間の因果性について独自の定量的測度を導入してその確率論的概念、統計的推測法を、広範囲の定常・非定常時系列モデルに対して開発してきた。グラフの特定のため、第三系列を条件付けとした偏因果性諸測度(partial causal measures)について、時系列モデル識別、複数の一方向偏因果測度および偏相互性測度の同時推定・同時検定法の研究ならびに計算アルゴリズムの開発、実データへの応用といった一連のテーマを考察した。共和分ベクトルARMAモデルなどにもとついてパラメトリックに偏因果測度を数値的に導出解析するため、多変量ARMAスペクトル密度関数の正準分解が不可欠となるが、とくに20年度の研究においては、これを多変量MAスペクトルの分解問題に帰着することができることを解明した。こうして、Whittle型尤度関数に基礎をおいた、推定・検定法についての数値計算プログラムと、本研究者がすでに開発したMAスペクトル密度行列の数値的正準分解アルゴリズムを適用して、一方向偏因果測度、相互性測度を数値的に推定する計算法の道が開けた。これが本年度の成果である。
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