多変量実験データの間の従属関係の表示に用いられるグラフィカルモデル法と、それとは独立に発展してきた時系列解析予測理論にもとづく因果性概念とを融合して、因果性の方向だけではなく、それに加えて因果性の定量的特徴づけを可能とする、応用性の高い経済経験分析の接近法を構築することが本研究の目的である。平成19年度の研究より継続して、グラフィカルモデル分野のこれまでの研究著書、研究論文を渉猟・比較研究をおこなってきている。自然科学の実験データ分析で展開されている方法論を時系列計量経済モデルに応用できる方法への改良を追及した。これまで、本研究者は二系列の多変量時系列データ間の因果性について独自の定量的測度を導入してその確率論的概念、統計的推測法を、広範囲の定常・非定常時系列モデルに対して開発してきた。グラフの特定のため、第三系列を条件付けとした偏因果性諸測度(partial causal measures)について、時系列モデル識別、複数の一方向偏因果測度および偏相互性測度の同時推定・同時検定法の研究ならびに計算アルゴリズムの開発、実データへの応用といった一連のテーマを考察した。共和分ベクトルARMAモデルなどにもとづいてパラメトリックに偏因果測度を数値的に導出解析するため、多変量ARMAスペクトル密度関数の正準分解が不可欠となるが、とくに21年度の研究においては、AR因子のアジョイント行列表現をもちいることにより、問題を多変量MAスペクトルの分解問題に帰着することができることを解明した。こうして、Whittle型尤度関数に基礎をおいた、推定・検定法についての数値計算プログラムと、MAスペクトル密度行列の正準分解のための数値法を用いて、一方向偏因果測度、相互性測度を数値的に推定する計算法することが実行可能となった。
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