研究概要 |
1. 本研究の目的は, EU東方拡大を契機に進展した中東欧における大手自動車メーカーによる製造拠点の創設が欧州の自動車生産システムに及ぼすインパクトを考察することにある。平成20年度は, 新たに形成された広域欧州生産分業ネットワークの基本的な特徴と欧州自動車産業の構造変化の意義の解明を中心に研究を総括するとともに, 研究成果の取り纏めと今後検討すべき課題の整理を行なった。 2. 実証的検討を重視する立場から, 欧州自動車産業の現状把握にもとづく分析と総括につとめた。具体的には, 前年度の現地調査ならびに文献・データの解析をふまえ, EU拡大にともなって急成長したEU周辺地域における自動車産業の基本動向の研究に集中的に取り組んだ。とくに自動車製造拠点新設の進む中東欧地域ならびに新産業集積地として台頭しつつあるトルコ, 潜在的な市場の魅力が高まりつつあるロシアに注目し, 各地域の産業動向を整理するとともに, 欧州の地域間分業体制におけるそれぞれの主要な機能・役割などについて検討を加えた。 3. 上記の研究成果は, 学術論文ならびに学会発表として取り纏め公表した。一連の研究成果では, (1) 自動車産業の躍進めざましい中東欧やトルコは対EU輸出拠点として重要な役割を担う存在となりつつある, (2) 潜在的市場として有望視されるロシアでは外資による製造拠点の形成が本格化している, (3) 拡大EU周辺地域における自動車産業の新展開は, ロシアやトルコを巻き込んだ効率的な分業体制の構築を射程に収めた欧州生産ネットワークの変化を示すものとして注目に値する, などの点を指摘した。併せて, (4) 欧州自動車生産ネットワークにおける西欧生産拠点の位置づけの明確化の必要性など, 欧州生産ネットワークの変容と自動車生産システムの進化にかんする研究を継続することの重要性を確認した。
|