研究概要 |
科研費により執筆された論文「地球規模の公共経済哲学を見据えて-異質な他者との対話の可能性」(公共研究2007年9月第4巻第2号,pp.105-122)は、地球規模で生起しつつある様々なイシューの1つである「南北問題」に関し,経済学を主軸としつつも「公共哲学」的視点に立脚した総合的な検討を試みたものである。当該論文においては、経済的な「不等価交換」の性質についての議論,「異質な他者」の概念と経済学の方法論とを関連づけるための談話の掲載、またこの談話を元にした若干の考察を行った。当該論文の意義は,従来の経済分析においてとかく軽視されがちであった経済主体の多様性を明示的に考察すべき旨を,包括的に論じたことである。アジア太平洋地域(主にAPEC諸地域)関しては,多様性が欧州など他地域に比して高いため,同地域の不安定要因が創出しやすい。しかし同時に,多様性こそが貿易理論でいうところの比較優位にもつながる。これらの点に鑑み,同研究ではいくつかの事例を元に多様性の功罪につき,論じた意味において重要性と独自性を持つ。この研究は今後のアジア太平洋地域の経済活動に関する数理的な解析の土台となり,この解析によって明らかになるであろう,具体的な政策提言として,学問的な課題を超えた地球社会の直面する深刻な課題であるところの,また地球社会の地域間格差としての南北問題のみならず,世代間格差としての「持続可能性」とも深く関連している点に言及するものである。
|