著書(分担執筆)「地球温暖化問題」は環境経済学の立場から地球温暖化問題についての解説を行ったものであるが、温暖化問題の経済学的性質を説明する節において温暖化対策における不確実性、不可逆性の役割を正しく評価することが今後重要になるであろうことを強調した。 本研究テーマにかかわる平成19年度の論文公刊、学会報告はないが、平成20年6月に南京大学で行われる国際学会(Sixth International Symposium on Multinational Business Management)で論文"Game of Pollution Reduction Investmentunder Uncertaihty"を報告することが決定しているので、以下にその概要を紹介する。汚染物質削減政策の決定における不可逆性の役割をリアル・オプションのゲームモデルの枠組みで検証した。被害は汚染物質蓄積量の線形関数であり、削減投資にかかる費用は削減量の線形関数であることを仮定した。削減費用が異なる2つの国が削減投資決定を行うゲームモデルを記述し、非協力解(Nash均衡)、Pareto効率的な協力解を求めた。各国の最適な決定は、不確実な被害パラメーターがある値(臨界値)を超えたときに排出量を0にするというものである。投資の不可逆性は臨界値を上昇させる効果をもち、この効果は不確実性の度合いが増すにつれて大きくなる。さらに非協力解と協力解の間には乖離がみられ、非協力解での臨界値が高くなった。これは、各国が他国の削減にただ乗りをしようとするインセンティブが働くからである。以上の分析により、不可逆性が存在するときには、不確実性の度合いが増すにつれて社会が不可逆的な投資を行うことに慎重になるべきであること、効率的な削減を行うためにはただ乗りを防止する政策が重要であることが明らかになった。
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