知識創造活動を「探索」と「活用」の二つに分け、それぞれに好ましい環境および最適な組織形態を考えるために3つのテーマで研究を行った。期中に経済産業研究所において、特許発明者に対するサーベイ結果を分析する機会を得たので、理論研究よりも一橋大学長岡貞男教授と共同で始めた実証研究を優先した。第一のテーマは、プロジェクトの目的別にR&D生産性の決定要因がどう違うかという質問である。「探索」は主として新製品の開発や技術基盤の強化に関連し、「活用」は主としてコア事業の強化を目的とした研究プロジェクトで高まると想定し、プロジェクトの目的別に、R&D生産性(特許の数と、発明者によって評価された特許の経済的価値の二つで計測)と企業・プロジェクト・発明者の特性との間の関係をサーベイデータを使って分析した。企業規模とR&D生産性の関係がプロジェクトの目的により大きく異なることを発見した。第二のテーマは、研究者にとってのモチベーションの源泉である。具体的には、内因的動機の一つである「科学技術への貢献」と、外因的動機の一つである「金銭的報酬」の二つに着目し、これらの強さが何によって決まり、R&D生産性とどのような相関があり、二つの間でどのような相互作用が見られるか分析を行った。「探索」は技術面での飛躍を狙ったリスクの高い研究プロジェクトの特徴であり、「活用」は積み上げ式で行うリスクの低い研究プロジェクトの特徴であると想定し、内因的、外因的動機によってこつのタイプの活動間で選択が変化する可能性がモデルで示唆されたので、サーベイデータで検証を行った。二つの動機の間にクラウドアウト効果が確認できた。第三のテーマは、NK Landscape型のシミュレーションを使った筑波大学花木伸行准教授との共同研究で、制約のない自由なサーチと制約を加えた限定的なサーチの比較であるが、まだ十分な成果は出ていない。
|