21年度の研究活動は、(1)研究開発者の生産性と動機づけ、とりわけ金銭的インセンティブの効果にかかわる研究の完成と、(2)最適な組織内知識創造活動を解析するコンピューターシミュレーションを使った研究(筑波大学花木伸行准教授と共著)の完成を目指した。(1)については、既に、20年度までの研究で、研究開発者の生産性が、科学技術発展への貢献やチャレンジングな課題克服への興味など内発的動機付けと高い相関を持つことを示し、その理由についてもある程度解明を進めた。21年度は、発明報奨制度など金銭的報酬が研究開発生産性に何らかの影響を与えていたかという研究課題に注力した。知的財産研究所の発明報奨制度サーベイ及び経済産業研究所の発明者サーベイの結果(1990-2002年)を用いた分析によると、実績報奨制度は、特許の質や量、商業化の頻度に対してはほとんど効果がなかった。こうした研究結果は、特許法35条の改正論議や企業の職務発明制度設計の上で、有効な議論のベースを提供する。(2) については、既に20年度までの研究で、「探索」と「活用」という二つの異なる組織学習を理論的に定義し、コンピューターシミュレーションにより、(a)最適な「探索」と「活用」の組み合わせは、探索中心もしくは活用中心となる傾向があり、均等な組み合わせは逆にパーフォーマンスを低下させる傾向があること、(b)上の傾向は、環境の複雑性、不確実性が高まるほど強まることを示した。21年度中は、詳細なデータ解析を基に、(c)「探索」の水準を上げると、メンバーの知識の多様化が進み、共有された組織知の蓄積が進まない、(d)組織知の「活用」を進めると、メンバーの知識が標準化され知識の共有が進みさらに組織知の蓄積が進む、ことを示した。知識の多様化と共有のトレードオフに着目した研究は本研究が初めてであり、組織学習及び経営戦略の分野への貢献となる。
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