本年は、外国との貿易・投資活動が各国の所得に与える影響を、いくつかの事例について推計することを目指した。そして、貿易活動が所得に与える影響については全要素生産性を、投資活動が所得に与える影響については投資収益率を指標として取り上げた。もし貿易活動が産業の全要素生産性を上昇させれば、その生産性の上昇によってその産業に従事する労働者の所得も上昇する。また、もし外国からの投資の収益率、すなわち外国資本の限界生産性が資本の出し手の国毎に異なっていれば、投資収益率の高い国からの投資は国内産業の限界生産性を高め、その産業に従事する労働者の所得も高める。 貿易の全要素生産性への効果については、本年は1990年以降の日本を分析対象としたが、この期間、日本の対外貿易額と日本の産業の全要素生産性の間には明確な関係は観察されなかった。また、外国との投資活動については、OECD諸国間の2001年から2003年の直接・間接投資のデータを用いて、直接投資を通じて各国の持つ経営資源が外国に移された場合、どの程度投資国に収益をもたらすかを推計した。直接投資からの収益率を決める要素として、投資情報分析能力、基準利益率、経営資源優位性、そして配当変動率を考え、それぞれが投資収益率に与える効果を計算することで経営資源の収益率を抽出した。その結果、経営資源優位性については各国の値にかなり差があり、直接投資が限界生産性を高める効果はその資本の出し手によって異なることが明らかになった。また、日本については2001年と2002年には分析対象国平均に近い値を記録しているが、2003年には急低下していた。
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