1.国際資本移動が各国の所得・賃金に与える影:国際的な資本移動の拡大が各国の所得・賃金に与える影響を、投資の収益率から推計する方法を用いて考察した。データは2000年代のOECD加盟10カ国間のもので、分析においては直接投資と間接投資、そして母国要因と受入国要因に分けている。投資の収益率では、フィンランド、スウェーデン、イギリス、アメリカが母国の直接投資で収益率が高く、他方受入国要因は直接・間接投資のどちらもどれほど大きくなかった。直接投資と間投投資の収益率の差を経営資源の収益率と捉えると、上記4カ国にある会社の経営資源は他国と比べて高いといえる。また、各国の所得や賃金については、投資によってもたらされる技術や知識の国内他産業への伝播がなく、かつ名目額での評価であるが、外国からの投資をより多く受け入れている国ほど一般にそれによって所鐙や賃金が上昇する。 2.国際貿易が労働者の雇用数や賃金に与える影響:日本の製造業を例にして、1990代後半から2000年代前半のデータを使い、企業の生産物と競合する最終財の輸入や企業の生産に必要な中間投入財の輸入が、企業雇用者の雇用者数や賃金に与える影響を調べた。推計式は費用関数を用いている。その結果、企業の生産物と競合する最終財の輸入と雇用者数・賃金との明確な関係は観察されなかった。また、企業の中間財輸入の増加は学歴の比較的低い、勤読年数の比較的短い労働者の賃金を引き下げるという結果を得た。ただ、この影響は男性労働者で強く観察され、女性労働者については関係は曖昧である。
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