グローバリゼーションが所得に与える影響に関して、本年度は3つの研究プロジェクトを進めた。 (1)国際投資と所得:投資収益率からのアプローチ 国際資本移動の収益率やその決定要因を探り、そこから国際投資が各国の所得に与える影響を分析した。主要な結果として、以下が得られた。証券投資の収益率は各国で大きな違いがない半面、直接投資の収益率は高い国と低い国で5%もの差がある。経営資源の収益率が高いのは、アメリカ、イギリス、スウェーデンである。国際投資残高の多寡は、国際投資からの収益率ではあまり説明できないが、収益率の変動からはかなり説明できる。国際資本移動による国内生産増加幅は5%以上の国が存在する半面、資本流出の激しい国ではマイナスともなっている。 (2)国際貿易と所得:アウトソーシングと雇用・賃金 企業活動が国際化し、原材料や中間投入物を外国から購入することが年々増加している。このアウトソーシングの流れが企業の労働雇用や支払賃金にどのような影響を与えているか、経済産業省、厚生労働省、総務省が個別に実施しているアンケート調査の調査票情報を接続して調査した。その結果、日本企業がアウトソーシングを進めると、男性未熟練労働者の賃金は低下し、男性熟練労働者の賃金が上昇する傾向が観察された。ただ、女性の労働者に与える影響には明確な傾向はは観察できなかった。 (3)政治活動の国際化と所得:外国からの政治献金 日本では外国からの政治献金は禁止されている。しかし、ある国の政策は外国居住者にも影響を与えるので、もし外国居住者からの政治献金が認められれば、各国の経済政策は、自国の利害だけでなく他国の利害も考慮したものになり、現在よりもパレート改善をもたらすと思われる。この研究では「Protection for Sale」モデルを用いて、外国からの政治献金を認めることで各国の政策がパレート改善をもたらすことを示した。
|