営利病院の医療市場への参入を解禁すべきか否かについて理論分析を行い、営利解禁について肯定的な結論を得た。分析手法は、現状の「医療機関が非営利形態しか選択できない場合」と、営利病院解禁後の「医療機関が非営利形態をとるか営利形態をとるか選択できる場合」という二つの場合の厚生比較である。 制度面から見て、営利病院の参入を妨げているのは非分配制約になる。病院運営の結果得られた利益・剰余金を配当といった形で出資者へ分配することが禁じられているため、すなわち非分配制約があるために、利益の分配を目的とした営利企業は医療市場へ参入できない。 ここで仮に、営利解禁が行われたとすると、非分配制約を課されない営利病院も参入可能になる。すべての病院が営利になってしまうわけではなく、営利と非営利が混在するようになる。このため、非営利病院のみの場合と、営利・非営利病院とが混在する場合とを比較するという本研究の枠組みが必要になってくる。 上のような状況に即した形で営利解禁前後の厚生を比較するために、医療機関が「非営利形態しか選択できない場合」と「営利・非営利を自発的に選択できる場合」の二つの場合について理論モデルを構築し、医療機関の営利・非営利選択、そして患者が営利・非営利のどちらで受診するかの選択について分析を行った。 その結果、非分配制約をとるかどうかが選択可能な場合、自発的に非分配制約をとること、すなわち非営利を選択することが、契約できない品質に関して高品質を供給することのシグナルになること。さらに、医療機関が自発的に営利・非営利を選択できる場合のほうが、非営利しか選択できない場合よりも、大きいか少なくとも同程度の社会的厚生水準を達成可能であることが示された。
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