研究概要 |
雇用環境は、女性の出産行動に様々な経路で影響を与え、少子化問題に大きな影響を及ぼしていると考えられる。特に、現在の日本の雇用制度の下では女性は出産後の継続雇用が困難である場合が多く、その主要な要因の一つとして育児や家事労働の多くを女性が負担している点が挙げられる。こうした結婚後の育児等の家事負担の大きさは、現在の雇用や既婚者世帯の問題であるばかりでなく、未婚者の結婚に対する態度や技能習得の誘因にも影響を与える。そのような観点から、Gender Specialization of Skill Acquisition(石田潤一郎氏との共著、The B.E.Journal of Economic Analysis&Policy,Advancesに掲載)では、女性の結婚後の家事や育児負担が大きい場合、たとえ女性が高い技能を持っていたとしても労働市場で活用されない一方、家庭内の資源配分もゆがめてしまうことを示した。さらに、そうした高い技能を有する女性は結婚市場で敬遠されてしまう結果、女性の技能取得を抑制してしまう効果があることを導いた。その結果、女性に対する教育・技能取得への補助などの支援策は逆に女性の結婚市場での価値を低下させてしまい、技能を取得する誘因を引き下げてしまう可能性が高くなる。したがって、こうした女性全体の技能取得を奨励する政策よりも、既婚女性の育児に伴う放棄所得に対する補償を行う方が経済厚生上望ましいことを示し、女性が技能を高めるための新しい政策含意を提示した。 また、本年度は、企業組織、報酬制度と女性の育児に伴う離職の関係を分析するための基礎モデルを構築し、日本経済学会秋季大会で報告した(Peer Monitoring in Wbrk Place and Vbluntary JobSeparation of Parenting Women)。
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