中欧資本主義の比較経済学的考察という本研究課題最終年度(平成21年度)の目的は、平成19、20年度の現地調査と研究を踏まえ、文献読解を通じ研究を深めることであった。 2008年秋以降、国際金融危機・経済不況は中欧にも及んだがハンガリーとスロヴァキアの生産低下はチェコより大きかった。ポーランドは2008年第4四半期GDPが前期比でマイナスを示したが2009年度を通じ低い率であるとはいえプラス成長をおさめた。こうした差異は、中欧諸国の間の国際体制編入形態の相違とも関連を持つ。中欧4ヵ国は1990年代後半以後、外資系企業による輸出主導の成長を遂げてきたが、輸出依存度はハンガリー、スロヴァキア、チェコの3国が70~80%(2006年度)であるのに対し、ポーランドは40%(2007年)である。国際体制(主に、EU市場)に強く組み込まれているハンガリーとスロヴァキアはEU中心国における市場収縮から大きな打撃を受けたが、欧州の人口大国であるポーランド(約4000万人)は内需が大きいことに加え輸出依存度の相対的低さのため欧州中心国の不況の影響が小さかったといえる。 チェコがスロヴァキアと比較して生産低下の規模が小さかったのは、スロヴァキアが2004年以後低い法人税率で外資誘致を促進しつつ社会保障削減など「小さな政府」を志向したのに対し、チェコは相対的に高い社会支出を維持してきたため輸出減少を補うより広い国内基盤を有していたからである。ハンガリーは2001~2006年に賃金及び年金引き上げなど生活者重視の政策をとった。しかし、それに伴う財政赤字増大についてEUから警告を受け2006年以後緊縮政策に転じ、2007年以後同国経済は停滞していた。そこに欧州不況による輸出減少が加わり、ハンガリーの2008年以後の生産低下規模は大きくなったのである。以上が、本年度の研究で得られた成果の主な成果である。
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