研究概要 |
国境を越えた地域経済統合が進む過程において地方間経済格差が縮小するものか,拡大するものか,特に,その過程に及ぼす多国籍企業の役割,意義を分析する本研究は,理論的,実証的に問題にアプローチすることが必要である.そのため,最新の研究動向を追うために文献,統計資料をそろえ,それらを整理した.そして,9月以降は聞き取り調査を進めた.即ち,欧州ではスロバキア,ハンガリーへ進出している多国籍企業,日本貿易振興機構現地事務所などに対して,また国内では欧州で活発に事業を展開しながら,特に,西欧から東欧へと工場を拡張している代表的企業の幾つかを訪問し,インタビューを行った.更に,在欧日系工場の立地場所について,EUの地域分類NUTS-2レベル(日本における都道府県レベル)で整理し,データベースを作成した. 上記の研究成果の一部として,次ページの11.研究発表にある論文を発表した.本論文では,EUによる欧州単一市場(Single European Market, SEM)の意義について,その成果と限界について論じた.即ち,市場競争に基づいた資源の最適配分を目指すSEMは,生産性の上昇と雇用の創出に貢献すると同時に,その成果が加盟国間に均霑されないことによる軋轢を生むことになる.本論文の分析は,昨年度の理論的基盤上に,本研究テーマの実証的分析を進めたものの一部である. 欧州,並びに,国内での聞き取り調査において,多国籍企業の立地が当該地域の経済発展に寄与することが確認されたが,賃金高騰などによるコスト上昇や労働者の転職による技能蓄積の限界などの問題点も指摘された.多国籍企業の展開がもたらす実体経済面での変化に対応したEU並びに加盟国の政策対応について,次年度には整理し,成果に結び付けていく予定である.
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