研究概要 |
ジュネープにおける学会発表とそれを基にした共著本では,日系多国籍企業の立地戦略を多面的に分析した.即ち,1980年代以降の日系企業の対EU進出に関して,工場の様な生産施設はもとより,販売関連子会社,研究開発拠点,地域統括会社の立地を見るだけでなく,2004・2007年のEU東方拡大に対応する東西分業関係形成の特徴,そして,過去20年間の日系企業の欧州からの撤退についてもその事実関係を確認した.そこで得られた知見は,日系企業によるEU経済への積極的な投資・現地化・関与,東方拡大が日系企業の欧州内生産再編成と生産力拡大に寄与したこと,それと同時に,投資件数のほぼ3分の1が実は撤退していることであり,それは,EU域内における競争の激しさとEUへの直接投資の難しさを示唆するものであった. ポルトにおける学会報告は,EU加盟国内における地方間経済格差の特徴と加盟国間でそのパターンに相違があることに対して,多国籍企業がいかなる立地戦略により対応し,そのことの意味を分析した.フランスとイギリスは,労働市場の柔軟性・硬直性において,EU内部でも対極を成すと言われるが,そのことを具体的に多くの労働市場関連指標によって確認したうえで,それらと工場立地パターンとの関係を回帰分析により検証した.その主だった結論としては,両国とも賃金水準よりも失業率が有意性を持つ一方で,フランスでは労働の質が,イギリスでは雇用・解雇の容易性が重要な要因であることが確認できた.また,どちらの国でも,当該国産業の集積地に対する投資・立地よりも,それらを避ける傾向があることが確認された.なお,この学会発表とそれに対するコメントを踏まえて修正校を現在Academy of International Business,Annual Conference in Nagoya,July,2011に投稿中であることを付記しておく.
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