高齢者向けのサービス、特に福祉や介護等の諸サービスについて、供給組織および市場の特質、ならびに当該領域に対する政策の可能性について分析することを課題として研究を進めた。とりわけ、当該市場に特有の情報のあり方、および高齢者対象サービスに顕著な「関係性」の高い取引の特性を考慮し、供給組織形態としての非営利組織と「関係財」との機能的関連について分析を進めた。同時に、高齢者の経済活動や関連諸制度に関するこれまでの研究・実態調査等を用いて、具体的な問題の所在、モデル設定の妥当性等について検討した。 関係財とは、個人間の関係自体を、諸個人の経済行動に対する動機付けの要素として概念化したものである。近年、「関係財」という概念を用いることによって、個人間関係を経済分析に組み入れようとする試みが展開されている。本研究において、高齢者向け福祉サービス供給の領域における非営利組織の機能分析について、関係財概念を導入することによって、福祉サービスの取引にともなう関係財の存在と、当該領域における、営利組織に対する非営利組織の機能的優位性との関連について、一定の合理的説明を与えることが可能となった。 特に本年度の研究においては、非営利組織の機能分析における関係財概念の導入、および従来から展開されてきたソーシャル・キャピタル(社会関係資本)概念と非営利組織との相互強化関係に関する研究との関連に着目し、両概念の導入それぞれが非営利組織研究に対して持つ意義と課題、およびそれらの概念の関係について考察した。その結果は、広く研究蓄積がなされてきたソーシャル・キャピタル研究の発展に資するとともに、多元的経済秩序論に基づく経済政策論の基礎理論としても意義を持っている。これらの成果の一部は、経済社会学会全国大会において報告された。ただし、報告予定であった日本NPO学会年次大会は東日本大震災のため中止されたため、さらなる成果発表の場を設けることを検討している。
|