本研究課題の目的は、日本の自然利子率の計測とそのマクロ政策含意について、包括的な比較実証研究を行うことである。宮尾の専門分野であるマクロ経済学の知見と計量経済学・時系列分析の知識を最大限に活用し、より妥当な計測アプローチとその推計結果を導出することを目指す。 本年度は、昨年度行った先行研究のサーベイを継続するとともに、特に日本に関する既存の実証研究に着目して、その推計アプローチの妥当性について検討した。自然利子率を未知の変数として取り扱う手法としてカルマン・フィルターがあり、マクロ・モデルをベースとした状態空間モデルを設定して、自然産出量と自然利子率が計測される。その際に、既存研究では、マクロ・モデルのラグ構造や総需要の利子弾力性の取扱いなどについて恣意的な設定が採用されており、他の代替的なモデル設定を試みるなど、改善の余地が大きい。また推計にあたって与えられる初期値に関しても複数のアプローチが考えられ、その優劣や結果の頑健性が十分に検討されていない、といったことが判明した。 また実際の推計準備を進め、推計に用いられる基礎データの整備を進めた(GDP・国民経済計算(SNA)関係データ、資本ストック、労働関係データ(労働人口、就業人口、労働時間など)、資本稼働率(製造業、非製造業)、金利(コールレート、現先レート、国債利回り等)など)。そして各データの時系列的特性についても検証した。来年度はこれらの成果を踏まえ、推計アプローチの改善を反映した実証分析へと進む予定である。
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