自然利子率(あるいは均衡実質金利)は、経済に対して中立的で物価変動をもたらさない金利水準として一般に定義され、マクロ経済学やマクロ経済政策を議論する際のベンチマークとなる基本変数である。特に金融政策の分野では、現実に観測される市場実質金利と均衡実質金利の差が金融政策のスタンスを測る尺度となり、自然利子率の計測は非常に重要な政策含意を持つ。そこで本研究課題では、日本の自然利子率の計測とそのマクロ政策含意について包括的な比較実証研究を行うことを目的に、宮尾の専門分野であるマクロ経済学の知見と計量経済学・時系列分析の知識を最大限に活用しつつ、研究を進める。昨年度までの理論文献サーベイおよび推計準備作業に基づき、本年度では、実際の推計ならびに比較検証を行った。推計に用いられるデータは、GDP・国民経済計算(SNA)関係データ、資本ストック、労働関係データ(労働人口、就業人口、労働時間など)、資本稼働率(製造業、非製造業)、金利(コールレート、ターム物レート等)などである。各データのトレンド特性に留意しつつ、フィルタリング・ベースの推計値、生産関数アプローチに基づく推計値等を比較することで、それぞれの特徴と現実妥当性を検証する。そのうえで、テイラー・ルール型政策反応関数に基づき、推計値の政策含意に対する評価を試みる。特に近年のゼロ金利制約を考慮して、99年以前の推計パラメターを前提に計算されるテイラー・ルール金利の水準を比較検討する。また最近の金融危機におけるエピソード(危機前の景気過熱と危機後の落ち込み)との関連なども議論する。全体として、生産関数アプローチに基づく推計値の妥当性が浮き彫りにされる。
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