●昨年度の目的と手法:急激に変化する経済環境を考慮して、IT化の進展等に関する包括的因子や研究開発部門の外部効果に関する因子をシステムに導入することによって、新しい内生的経済成長モデルを構築すること、およびこのモデルのもとで、所得の不平等に関する分析をすることである。具体的には、まず、内生的経済成長モデルにおいて、経済環境を反映するパラメータを中間財生産に導入した。その経済環境を体化するパラメータは、ITの進展などの経済環境が各国毎に異なるために、豊かな国から貧しい国まで異なる値をとり、一様分布するものとした。さらに、研究開発部門の生産関数に外部効果の因子も組み込ませて、従来のモデルよりもより現実的なモデルへと発展させた。この新しいモデルのもと、所得の不平等を図る指標としてジニ係数を扱い、経済的環境のパラメータ等がジニ係数にどのような影響を及ぼすのかを分析した。 ●結果:新しいモデルのもと、経済環境のパラメータがジニ係数に大きく影響を及ぼすことが以下のように確認できた。(1)一旦、中間財の生産において、先進工業国と発展途上国との間で経済環境の相対的な変化(パラメータの比)が拡大すれば、両国間の所得格差は大きく拡大し、それに関連するジニ係数も大きくなる。(2)経済環境の格差がより一層拡大すれば、ジニ係数は緩やかに拡大する。最後に、経済環境と製品のライフサイクルに変化がないとすれば、技術革新の程度が大きければ大きいほど、ジニ係数は大きくなり、所得の不平等も拡大するという結果も得られた。 ●意義・重要性:経済的な環境を変化させるグローバル化が所得の不平等の拡大要因である可能性を理論的に示したこと、したがって、平等の観点から、IT化等の進展が無条件に好ましいことではなく、物的および人的資本と同様に、その所得の分配に関しては大きな影響を及ぼす可能性を示唆している点で意義がありかつ重要である。
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