所得格差の拡大と社会階層の固定化の問題点は、人々に対する家族や地域社会といった社会的なネットワーク、そして政策によるセーフティ・ネットは果たして十分であるか、また、再チャレンジする場合の基盤は整備されているかという点である。更に重要な点は、近年の社会状況の中で、人々が社会経済制度に対する安心感を持っているか否か、また、生活上の変動に遭遇した場合の人々の対応はどのようになされているか、である。こうした問題に対する先行研究で人々の主観的な幸福感について着目した研究はない。そこで本研究は、主観的幸福感に着目し、生活上の変動が人々の主観的な幸福度に影響を与えるインパクトを定量的に分析するとともに、その克服の過程と周囲からの親族や地域社会からの支援の状況、政策の効果を分析する。具体的には、結婚・出産・介護等の家族形成、失業や転職、事故・病気・親族の死去などの生活上の変動が、人々の主観的な幸福感に与える影響とその克服の過程、また、家族や地域社会といった社会的なネットワークや政策によるセーフティ・ネットの役割を実証的に明らかにすることにより、近年上昇しつつある生活リスクに対する効果的な施策について検討を行うことを目的とする。平成19年度については、心理学を含めた先行研究の基礎調査を行い、加えて、家計経済研究所「消費生活に関するパネル調査」と大阪商業大学比較地域研究所JGSS事務局「Japanese General Social Surveys(JGSS)」の個票データを用いて、生活上の変動を経験したサンプルの基礎分析と生活上の変動前後の主観的幸福度の変遷観察、また、生活上の変動と家族や地域社会といった社会的なネットワークや政策によるセーフティ・ネットの状況の観察を行った。子供の出産・育児といった世帯の変動が女性の幸福感にどのような影響を与えるかについて、白石・白石「2006」をリバイスし公表した(白石・白石[2007])。同論文は現在投稿中である。
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