会計検査が財政規律の維持や財政支出の効率化にどのような効果を持っているか、海外での研究動向を調査したところ、アメリカでは州によって検査官の長が選挙によって選ばれているところと行政あるいは立法府によって任命されているところがあることがわかった。そして、8月に出席したヨーロッパ経済学会の公的監査に関するセッションで、長が選挙によって選ばれた州の方がいわゆる有効性の観点からの検査を推進し、財政支出の規律改善に効果があるという、M. Schelker教授(スイス、フリボーグ大学)による実証研究の成果を聴取した。この議論はT. BesleyとS. Coateによる電力産業規制のパフォーマンスに関する政治経済学的分析を公的監査に応用した形になっている。そこで日本の実情について調査したところ、地方公共団体の監査委員制度について有識者と議員からそれぞれ監査委員が選出されており、その構成は団体間でも若干のバラツキがあることが判明した。また、近年外部監査を取り入れる自治体が増えてきているが、取り組みの程度は自治体間で温度差があることもわかった。そこで、実情をより具体的に把握すべく、北海道監査委員事務局へ出向き、監査委員が識見選抜か議員選抜で監査への取り組みや実績に明確な違いがあるかどうか、外部監査の導入や住民監査請求が実際の監査活動に与える影響についてどのように認識しているかなどの項目についてインタビュー調査を行った。その結果、日本では上記のアメリカのケースほど監査委員の出身母体の違いが監査活動に与える影響は明確ではなく、とくに議員選出の監査委員は名誉職的な色彩が強く、また監査スタッフも国の会計検査院のような監査のプロをほとんど養成していないといった実態が明らかとなった。
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