研究概要 |
本研究では,財政収支に関する決算の情報が政治的な意思決定へどのようにフィードバックし,いかなる帰結をもたらすかという点に焦点を当てて,理論的な分析を行った.まず,財政再建がどのように進められたかを明確に表すように決算審査を厳密かつ迅速化する「予算の透明化」と,政治資金のやりとりを白日の下にさらす「政治の透明化」のどちらが,政府のモラルハザードを軽減し,財政支出の効率化に結びつくか,不完備情報モデルにもとづいて検討した.そして,政治の透明化よりも予算の透明化の方が,利益集団の政治的影響力を低下させ,財政支出の効率化を促すことを明らかにした.また,政治家が公共プロジェクトに偽装して利益集団に所得を移転しようとする「偽装された所得移転」のメカニズムを,簡単な不完備情報ゲームの枠組みで捉えうることを明らかにし,政治家の政策選好と公共プロジェクトの成功確率についての二重の不確実性が重要であることを指摘した.これらを含んだ研究の成果は,『公共選択の経済分析』というタイトルで,4月下旬には東京大学出版会から刊行される.さらに,政府の財政情報の共有が新たな政府間競争を生み出す側面に着目し,中央集権と地方分権のどちらが官僚のモラルハザードを回避する点で望ましいか検討した.官僚による意思決定のモデルとしては,近年注目されているCareer-concerns modelを用いている.その結果,中央集権は政策のコントロールによって情報の外部性を消滅させ,官僚のモラルハザードを助長することを明らかにした.この研究成果は今年度の逗子コンファレンスで報告され,近く書物の1章として刊行される予定である.
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