研究概要 |
今年度の本研究では,まず前年度までの研究成果をまとめた書物を出版した.この本には今年度の日経・経済図書文化賞を授与された. 次に,前年度末に引き続き,本研究では,政策担当者が退任後の就職先や報酬を目当てにして政策運営に努力するキャリア・コンサーンズ型の政策形成と,異なる地域での政策成果を比較することで得られる政策担当者のパフォーマンスの情報が政策担当者の能力の評価に影響するヤードスティック競争に焦点を当て,政府の集権化・分権化を巡る政治経済学的な分析を行った. 本研究では,従来の研究では考察されていなかった次の点を明らかにした.第1に,政策担当者の能力が退任後民間部門でどのように評価されるかによって,集権と分権の相対的な望ましさが異なるということ,第2に,政策運営の努力が地域間の外部効果を持つとき,それが正か負かによって,集権と分権の相対的な望ましさは違ってくるということ,第3に,集権と分権の中間的な形態である部分統合が最適な統治形態になるケースが生じること,第4に,中央政府と地方政府が共存するような形態が最適な統治形態になるための条件を2つの効果のトレードオフ関係として明らかにしたこと,である.このトレードオフとは,部分的な地方分権がもたらす「焦点」効果による政策運営の努力水準の上昇と,「ノイズ拡大」効果が生じパフォーマンスの相対評価が低下することによる努力水準の低下をいう.部分的な分権化が望ましいかどうかは,2つの効果の相対的な大きさに依存して決まる.本研究の成果は英文論文にまとめられ,オーストラリア-アジア公共選択学会およびアーバイン・日本公共政策コンファレンスの国際学会,国際コンファレンスで報告された.また,来年度のヨーロッパ公共選択学会および春季日本経済学会でも報告することが決まっている.
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