本研究は、金融経済学の中で、マーケット・マイクロストラクチャーと呼ばれる分野の研究であるが、証券の売買システムとして指値注文市場が採用されている場合に、投資家がどのように注文を出し、その結果どのように取引が行われるかを、指値注文市場ゲームのマルコフ完全均衡を数値計算により求め分析を行うことが目的である。指値注文が発注から一定期間経過した後に自動的にキャンセルされると仮定して板に残る注文が一定数以上にならないようにすることで板の状態を簡略化した上で、均衡を数値的に探索するプログラムを作成し、いくつかのパラメータ値の下で均衡を特定した。さらに、見つかった均衡の性質を解析するプログラムを作成し、均衡における発注戦略および取引価格の性質について分析を行った。その結果、注文流入が売りまたは買いに偏った場合には、注文流入の多い側においてより積極的な気配が設定される、その結果スプレッドが狭くなる、さらに呼値の刻みが相対的に粗い下で注文流入が非常に活発な場合には注文流入の多い側の板が厚くなるが、注文流入が不活発な場合には板が厚くなりにくい、という性質があることがわかった。このような性質は、指値注文が短期でキャンセルされる場合のみならず、一定期間板上に残る場合にも発生しており、頑健な性質である可能性がある。また、指値注文は従来流動性を供給する注文であると考えられてきたが、Hasbrouck and Saar(2007)が現実の市場における指値注文の挙動に関して分析した結果から投資家は場合によっては指値注文により流動性または即時性を需要しようとしているのではないか、と議論しているが、本研究の均衡における指値注文は約定率などについてそのような見方と整合的である。
|