本研究では、金融政策と物価の関係をみるうえで重要なポイントとなる物価に関する民間経済主体の期待形成を分析するため、従来は踏み込んだ分析がなされてこなかった両大戦間期日本の有価証券・商品市場の価格データを用いて、当該市場の効率性について考察したうえで、市場参加者の物価に関する期待を検出する。 19年度は、分析に必要なデータの収集ならびにデータ・ベースの整備を行なった。具体的には、代表的な先物商品5品目(米:大阪堂島米穀取引所、綿花・綿糸:大阪三品取引所、生糸:横浜取引所、砂糖:大阪砂糖取引所)について、全国各地の大学付属図書館、資料館等に分散して所蔵されている商品先物取引価格のデータを統合し、1920年代後半から1930年代の時期をカバーする先物市場価格のデータ・ベースを作成した。国債データについては、1928年から1936年初までの時期について、主要銘柄の東京株式取引所における流通価格のデータを収集し、クーポンレートが同一で満期の異なる複数の国債の価格を用いて期間別金利を推計した。この間、20年1月には、有価証券・商品市場の効率性の前提となる商品流通とその決済の変遷に関するワークショップを開催した。 20年度は、上記のデータを用いて、先物市場の情報効率性に関する検証を行なうとともに、市場参加者の物価に関する期待形成を定量的に計測し、金本位制からの離脱や長期国債の日本銀行引き受けの開始といった政策体系の変化が、市場参加者の期待形成のあり方を変化させていたかどうかを検証する。研究成果は、学会(日本金融学会、社会経済史学会、World Congress of Cliometricsなど)で発表するとともに、学術誌への投稿を行なう予定である。
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